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4月14日

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クン=ウー・パイク氏のピアノ・コンサートを聴いてきました。

聴きに行った動機は、(いつもながら)ベートーヴェンのピアノソナタ32番がプログラムに組まれていたからです。

32番の聴き比べのために入手した彼のピアノソナタ32番の私のCD評は、

「各フレーズに明確な意図を込め、独自の美学に貫かれた魅力がある。だが第一印象はあまり良くなかった。

この曲の名盤達が持つ共通のニュアンスがいくつか欠けていたからだが、欧米の感性とは異なる地平の独特な表情がある。」

というものでしたが、この印象が生演奏を聴いてどう変わるか(あるいは肯定されるか)興味がありました。

さて、コンサートを聴いた後の私の印象ですが、CDを聴いたときの感想は「当たらずと雖も遠からず」か、と思いました。

(それがヨーロッパとアジアの違いなのかは不明ですが)凛として、また力強く、威厳と哀愁の表情が印象的な、独特の美意識が魅力と感じる一方で、

もっとふくよかに、もっと余韻を生かして、もっと愛らしく、と思うようなパートまで“凛として、力強く”まとめ上げてしまう傾向が感じられました。

パンフレットの解説にもありましたが、腕をあまり使わず、手首から先で鍵盤を押す弾き方なのに非常にピアノの音が大きく力強く響く特徴を持ちながら

前半の16番の2楽章で魅せた緩やかな旋律での微妙な音色の流れが今回のコンサートで最も印象的に感じました。

これなら32番のアリエッタの微妙なニュアンスもさぞかし、と期待を寄せた後半でしたが、16番の2楽章で魅せた独特の豊かさがあまり感じられず、

32番のもっと膨らみのある曲の可能性を、ビシッと彼の好みの凛とした印象に整理整頓してしまった淡泊な傾向を感じ、私としてはイマイチでした。

2か月前のジョン・リル氏の素晴らしい32番の印象が記憶に残っていて、それと比べてしまうため、フェアではないかもしれませんが。

 

ブラームスは前半の弦楽6重奏曲第1番の2楽章の作曲者本人によるピアノ編曲版がパイク氏の世界観に合っていて良かったです。

もともと私はこの曲が好きだったことも、より好印象を感じた理由かもしれませんが、凛とした風情が良く似合う曲だと思います。

後半初めの小品は、昨年9月に聴いた鷲見加寿子さんの音色豊かでふくよかなブラームスがあの曲に似合うなぁ、と私は感じました。